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短篇集(日文版)-第7部分

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熱地獄を現ぜさせる心算(つもり)ぢやが。」
 大殿様は又言を御止めになつて、御側の者たちに※(「目+旬」、第3水準1…88…80)(めくば)せをなさいました。それから急に苦々しい御眨婴恰ⅰ袱饯文冥摔献锶摔闻郡蝗恕⒖‘(いまし)めた儘、仱护皮ⅳ搿¥丹欷熊嚖嘶黏颏堡郡椤⒈囟à饯闻幛先猡驘啢扦蚪工筏啤⑺目喟丝啶巫钇冥蛩欷菠毪扦ⅳ椁Α¥饯畏饯溜Lを仕上げるには、又とないよい手本ぢや。雪のやうな肌が燃え爛(たゞ)れるのを見のがすな。姢黏畏郅摔胜膜啤⑽瑜疑悉毪丹蓼猡瑜σ姢浦盲薄!
 大殿様は三度口を御噤(おつぐ)みになりましたが、何を御思ひになつたのか、今度は唯肩を揺つて、声も立てずに御笑ひなさりながら、
「末代までもない観物ぢや。予もここで見物しよう。それ/\、簾(みす)を揚げて、良秀に中の女を見せて遣さぬか。」
 仰(おほせ)を聞くと仕丁の一人は、片手に松明(まつ)の火を高くかざしながら、つか/\と車に近づくと、矢庭に片手をさし伸ばして、簾をさらりと揚げて見せました。けたゝましく音を立てて燃える松明の光は、一しきり赤くゆらぎながら、忽ち狭い※(「車+非」、第4水準2…89…66)(はこ)の中を鮮かに照し出しましたが、※(「車+因」、第4水準2…89…62)(とこ)の上に惨(むごた)らしく、鎖にかけられた女房は――あゝ、誰か見摺丐蛑陇筏蓼护Α¥椁婴浃士悾à踏遥─韦ⅳ霔@の唐衣(からぎぬ)にすべらかし姢Fやかに垂れて、うちかたむいた黄金の釵子(さいし)も美しく輝いて見えましたが、身なりこそ摺亍⑿≡欷辘侍澶膜稀⑸伟驻ゎi(うなじ)のあたりは、さうしてあの寂しい位つゝましやかな横顔は、良秀の娘に相摺搐钉い蓼护蟆K饯衔¥肖由蛄ⅳ皮瑜Δ戎陇筏蓼筏俊
 その時でございます。私と向ひあつてゐた侍は慌(あわたゞ)しく身を起して、柄頭(つかがしら)を片手に抑へながら、屹(きつ)と良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正気を失つたのでございませう。今まで下に蹲(うづくま)つてゐたのが、急に飛び立つたと思ひますと、両手を前へ伸した儘、車の方へ思はず知らず走りかゝらうと致しました。唯生憎前にも申しました通り、遠い影の中に居りますので、顔貌(かほかたち)ははつきりと分りません。しかしさう思つたのはほんの一瞬間で、色を失つた良秀の顔は、いや、まるで何か目に見えない力が、宙へ吊り上げたやうな良秀の姿は、忽ちうす暗がりを切り抜いてあり/\と眼前へ浮び上りました。娘を仱护繖壚泼诬嚖ⅳ长螘r、「火をかけい」と云ふ大殿様の御言と共に、仕丁たちが投げる松明の火を浴びて炎々と燃え上つたのでございます。

       十八

 火は見る/\中に、車蓋(やかた)をつゝみました。庇(ひさし)についた紫の流蘇(ふさ)が、煽られたやうにさつと靡くと、その下から濛々と夜目にも白い煙が渦を巻いて、或は簾(すだれ)、或は袖、或は棟(むね)の金物(かなもの)が、一時に砕けて飛んだかと思ふ程、火の粉が雨のやうに舞ひ上る――その凄じさと云つたらございません。いや、それよりもめらめらと舌を吐いて袖格子(そでがうし)に搦(から)みながら、半空(なかぞら)までも立ち昇る烈々とした炎の色は、まるで日輪が地に落ちて、天火(てんくわ)が迸(ほとばし)つたやうだとでも申しませうか。前に危く叫ばうとした私も、今は全く魂(たましひ)を消して、唯茫然と口を開きながら、この恐ろしい光景を見守るより外はございませんでした。しかし親の良秀は――
 良秀のその時の顔つきは、今でも私は忘れません。思はず知らず車の方へ駆け寄らうとしたあの男は、火が燃え上ると同時に、足を止めて、やはり手をさし伸した儘、食ひ入るばかりの眼つきをして、車をつゝむ焔煙を吸ひつけられたやうに眺めて居りましたが、満身に浴びた火の光で、皺だらけな醜い顔は、髭の先までもよく見えます。が、その大きく見開いた眼の中と云ひ、引き歪めた唇のあたりと云ひ、或は又絶えず引き攣(つ)つてゐる睿Г稳猡握穑à栅耄─丐仍皮摇⒘夹悚涡膜私弧à长猓澹埽┩搐工肟证欷缺筏撙润@きとは、歴々と顔に描かれました。首を刎(は)ねられる前の盗人でも、乃至は十王の庁へ引き出された、十逆五悪の罪人でも、あゝまで苦しさうな顔を致しますまい。これには流石にあの強力(がうりき)の侍でさへ、思はず色を変へて、畏る/\大殿様の御顔を仰ぎました。
 が、大殿様は緊(かた)く唇を御噛みになりながら、時々気味悪く御笑ひになつて、眼も放さずぢつと車の方を御見つめになつていらつしやいます。さうしてその車の中には――あゝ、私はその時、その車にどんな娘の姿を眺めたか、それを詳しく申し上げる勇気は、到底あらうとも思はれません。あの煙に咽(むせ)んで仰向(あふむ)けた顔の白さ、焔を掃(はら)つてふり乱れた髪の長さ、それから又見る間に火と変つて行く、桜の唐衣(からぎぬ)の美しさ、――何と云ふ惨(むご)たらしい景色でございましたらう。殊に夜風が一下(ひとおろ)しして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉を撒(ま)いたやうな、焔の中から浮き上つて、髪を口に噛みながら、俊àい蓼筏幔─捂iも切れるばかり身悶えをした有様は、地獄の業苦を目のあたりへ写し出したかと疑はれて、私始め強力の侍までおのづと身の毛がよだちました。
 するとその夜風が又一渡り、御庭の木々の梢にさつと通ふ――と誰でも、思ひましたらう。さう云ふ音が暗い空を、どことも知らず走つたと思ふと、忽ち何かい猡韦⒌丐摔猡膜褐妞摔怙wばず、鞠(まり)のやうに躍りながら、御所の屋根から火の燃えさかる車の中へ、一文字にとびこみました。さうして朱塗のやうな袖格子が、ばら/\と焼け落ちる中に、のけ反(ぞ)つた娘の肩を抱いて、帛(きぬ)を裂くやうな鋭い声を、何とも云へず苦しさうに、長く煙の外へ飛ばせました。続いて又、二声三声――私たちは我知らず、あつと同音に叫びました。壁代(かべしろ)のやうな焔を後にして、娘の肩に縋(すが)つてゐるのは、堀河の御邸に繋いであつた、あの良秀と諢名(あだな)のある、猿だつたのでございますから。その猿が何処をどうしてこの御所まで、忍んで来たか、それは勿論誰にもわかりません。が、日頃可愛がつてくれた娘なればこそ、猿も一しよに火の中へはひつたのでございませう。

       十九

 が、猿の姿が見えたのは、ほんの一瞬間でございました。金梨子地(きんなしぢ)のやうな火の粉が一しきり、ぱつと空へ上つたかと思ふ中に、猿は元より娘の姿も、鼰煠蔚驻穗Lされて、御庭のまん中には唯、一輛の火の車が凄(すさま)じい音を立てながら、燃(も)え沸(たぎ)つてゐるばかりでございます。いや、火の車と云ふよりも、或は火の柱と云つた方が、あの星空を衝いて煮え返る、恐ろしい火焔の有様にはふさはしいかも知れません。
 その火の柱を前にして、凝り固まつたやうに立つてゐる良秀は、――何と云ふ不思議な事でございませう。あのさつきまで地獄の責苦(せめく)に悩んでゐたやうな良秀は、今は云ひやうのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、皺だらけな満面に浮べながら、大殿様の御前も忘れたのか、両腕をしつかり胸に組んで、佇(たゝず)んでゐるではございませんか。それがどうもあの男の眼の中には、娘の悶え死ぬ有様が映つてゐないやうなのでございます。唯美しい火焔の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく心を悦ばせる――さう云ふ景色に見えました。
 しかも不思議なのは、何もあの男が一人娘の断末魔を嬉しさうに眺めてゐた、そればかりではございません。その時の良秀には、何故か人間とは思はれない、夢に見る油酩闻辘怂皮俊⒐证筏菠蕝棧à搐饯─丹搐钉い蓼筏俊¥扦搐钉い蓼工椴灰猡位黏问证梭@いて、啼き騒ぎながら飛びまはる数の知れない夜鳥でさへ、気のせゐか良秀の揉烏帽子のまはりへは、近づかなかつたやうでございます。恐らくは無心の鳥の眼にも、あの男の頭の上に、円光の如く懸つてゐる、不可思議な威厳が見えたのでございませう。
 鳥でさへさうでございます。まして私たちは仕丁までも、皆息をひそめながら、身の内も震へるばかり、異様な随喜の心に充ち満ちて、まるで開眼の仏でも見るやうに、眼も離さず、良秀を見つめました。空一面に鳴り渡る車の火と、それに魂を奪はれて、立ちすくんでゐる良秀と――何と云ふ荘厳、何と云ふ歓喜でございませう。が、その中でたつた一人、[#「たつた一人、」は底本では「たつた、」]御縁の上の大殿様だけは、まるで別人かと思はれる程、御顔の色も青ざめて、口元に泡を御ためになりながら、紫の指貫(さしぬき)の膝を両手にしつかり御つかみになつて、丁度喉の渇いた獣のやうに喘(あへ)ぎつゞけていらつしやいました。……

       二十

 その夜雪解の御所で、大殿様が車を御焼きになつた事は、誰の口からともなく世上へ洩れましたが、それに就いては随分いろ/\な批判を致すものも居つたやうでございます。先(まづ)第一に何故(なぜ)大殿様が良秀の娘を御焼き殺しなすつたか、――これは、かなはぬ恋の恨みからなすつたのだと云ふ噂が、一番多うございました。が、大殿様の思召しは、全く車を焼き人を殺してまでも、屏風の画を描かうとする剑龓煾预吻à瑜长筏蓿─胜韦驊亭椁褂乃悖à膜猡辏─坤膜郡韦讼噙‘ございません。現に私は、大殿様が御口づからさう仰有(おつしや)るのを伺つた事さへございます。
 それからあの良秀が、目前で娘を焼き殺されながら、それでも屏風の画を描きたいと云ふその木石のやうな心もちが、やはり何かとあげつらはれたやうでございます。中にはあの男を罵(のゝし)つて、画の為には親子の情愛も忘れてしまふ、人面獣心の曲者(くせもの)だなどと申すものもございました。あの横川(よがは)の僧都様などは、かう云ふ考へに味方をなすつた御一人で、「如何に一芸一能に秀でやうとも、人として五常を弁(わきま)へねば、地獄に堕ちる外はな
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