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仮面城(日文版)-第15部分

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 警部がふりかえったときだった。家のなかからもうひとりの刑事が出てきた。
「警部さん、家のなかにはだれもいませんよ」
「だれもいない……?」
「ええ、でも、ついさっきまで、だれかいたことはたしかです。使用人べやに寝どこがしいてあるのですが、その寝どこにまだぬくもりが残っています」
 それを聞くと金田一耕助と等々力警部は、おもわずギョッとして顔を見合わせた。
 ああ、その使用人はどうしたのだろう。ひょっとすると、銀仮面に連れられて、どこかで殺されてしまったのではあるまいか……。
 一同がなんともいえぬ不安な思いに、顔を見合わせて立ちすくんでいるとき、だしぬけに、やみのなかから聞こえてきたのは、ズドンというピストルの音。
「アッ、なんだ、あれは……!」
 警部が叫んだときだった。またもや、ズドン、ズドンとピストルをぶっぱなす音。あまり遠くではない。
「警部さん、いってみましょう!」
 金田一耕助は、はや、はかまのすそをふりみだして走っていく。等々力警部と文彦、それから、ふたりの刑事もそれについて走りだした。
 洋館を出るとすぐ左側にかなり広い雑木林がある。その雑木林のなかから、またもやズドンと、ピストルの音が聞こえてきた。
「だれだ! そこにいるのは……?」
 警部もきっとピストルを身がまえた。
「アッ、警部さん、早くきてください。あそこに、銀仮面がいるんです」
 それは電話で呼びよせられた応援の警官だった。
「なに、銀仮面がいる?」
 一同はなだれをうって雑木林へとびこむと、
「どこだ、どこだ、銀仮面は?」
「ほら、あそこです。あそこに立っています」
 警官の指さすほうを見て、一同はおもわずギョッと息をのみこんだ。
 なるほど、五、六メ去毪啶长Δ尾荬韦胜恕ⅳ妞Δ激螭攘ⅳ盲皮い毪韦稀ⅳ蓼欷猡胜y仮面ではないか。
 林をもれる月光に、あの気味悪い銀仮面を光らせて、しかもその仮面の下からもれてくるのはなんともいえぬぶきみな声。
「く、く、く、く、く……」
 泣いているのか、笑っているのか、その声を聞いたせつな、文彦は全身の毛という毛がさかだつ思いがしたのだった。

     動かぬ銀仮面

「銀仮面、おとなしくしろ!」
 等々力警部が叫んだ。そして、おどしのために空にむかって、ピストルを一発ぶっぱなすと、
「銀仮面、こちらへ出てこい!」
 しかし、銀仮面は身動きをしようともしない。あいかわらず、
「く、く、く、く、く……」
 と、ぶきみな声をたてるばかりである。
「おのれ、いうことをきかぬと……」
 警部はピストルを身がまえたが、
「アッ、警部さん、ちょっと待ってください」
 あわててそれを押しとめた金田一耕助、ひざをも没する雑草をかきわけて、銀仮面のほうへ走っていった。
「アッ、金田一さん、あぶない!」
 警部がうしろから叫んだが、金田一耕助は耳にもいれず、相手のそばへかけよると、あのつばの広い帽子をパッととり、それから銀仮面をはずしたが、そのとたん、こちらから見ていた一同は、おもわずアッと手に汗をにぎった。
 口をきかないのもむりはない。その男はさるぐつわをはめられているのだ。また、身動きをしないのもどうり、その男はスギの大木にしばりつけられていたのである。
「いったい、ど、どうしたのだ。おまえはいったいだれだ?」
 近づいてきた一同が、よってたかって、さるぐつわをとり、縄をといてやると、その男は恐怖に顔をひきつらせて、くたくたと草のなかへくずおれると、
「わたしは……わたしはなにも知りません。ピストルの音と、だれかが救いを呼ぶ声に、目をさましてとび起きたところへ、銀仮面がやってきて……ピストルでおどされ、ここまで連れてこられ、ここにしばりつけられて、さるぐつわをはめられたのです」
 なるほど、そういえばその男は、まだ若い男だったが、ねまきを着たままで、スギの大木にしばりつけられ、その上に銀仮面のマントを、かぶせられていたのだった。
「いったい、きみはだれだ。あの洋館の者か?」
「そうです、使用人の|井《い》|口《ぐち》というのです」
 そこでまた、井口はきゅうに恐ろしそうな声をあげると、
「ご主人はどうしました。たしかにご主人の救いをもとめる声が聞こえましたが……」
「ご主人というのは、加藤宝作老人のことですか?」
 金田一耕助がたずねた。
「そうです、そうです」
「すると、あのうちは宝作老人のうちですね」
「そうです。近ごろ買って、引っ越してきたばかりです」
「近ごろ買って……そしてまえの持ち主はなんというひとですか?」
「知りません。わたしは知りません。ご主人はむろん知っていらっしゃるでしょうが……」
「よし、それじゃ警部さん、うちへひきかえしましょう」
「いや、それより銀仮面はどうしたのだ。おい、きみ、銀仮面はきみをしばりつけて、どっちの方面へ逃げたんだ!」
「知りません。わたしは仮面をかぶらされてしまったのですから」
「しかし、きみはあいつの顔を見たのだろう。仮面をはずしたとき……いったいどんなやつだった?」
「さあ……?」
 使用人の井口は首をかしげて、
「暗くてよくわからなかったのですが、まだ若い男のようでした。三十二、三歳の……」
「よし、それじゃきみたち」
 等々力警部は刑事や警官たちをふりかえり、
「銀仮面のゆくえをさがしてみろ。あいつはふつうの洋服すがたになって逃げだしたのだが、けがをしているから目印はある。それをたよりにさがしてみろ。わかったか!」
「はっ、承知しました」
 刑事や警官がバラバラと、暗い夜道を散っていったあと、使用人の井口をひき連れて、もとの洋館へ帰ってみると、加藤宝作老人は医者のかいほうで、ようやく正気にかえったところだった。

     地下道の足音

「アッ、警部さん、金田一さん、あなたがたはどうしてここへ……?」
 ベッドの上で、ほうたいまみれになった宝作老人は、一同の顔を見ると、びっくりしたように目を見張った。
「加藤さん」
 警部は相手をいたわるような目つきで、
「とんだ災難でしたね。しかし、どうしてこんなことになったのです。銀仮面はいったい、なにをねらってここへきたんですか?」
「ああ、それじゃ、あれはやっぱり銀仮面だったのですか」
「そうです。金田一さんはあいつの影が、その窓にうつっているのを見たのです」
「そうですよ。とっさのことで、わたしにはよくわからなかったのだが……」
 宝作老人は気味悪そうに身ぶるいをすると、
「わたしは今夜、早くからベッドへはいって寝たのです。いつもは支配人もうちにいるのですが、二、三日旅行しているので、いまはわたしと使用人の井口ふたりしかおりません。それで戸じまりにいっそう気をつけて、十時ごろに電燈を消して寝たのです。すると……」
「すると……?」
「何時ごろでしたか、よく寝ていたのでわかりませんが、なにやらガタガタいう音で目がさめました。そこで電燈をつけたのですが、すると、とつぜんその押し人れのなかから、あいつがとびだしてきたんです」
「押し入れのなかから……?」
 金田一耕助がたずねた。
「そうです、そうです。それでわたしがびっくりして、声をたてようとすると、いきなりそいつがピストルをぶっぱなして……それきりあとのことは覚えておりません」
「加藤さん」
 金田一耕助はきっと相手の顔を見守りながら、
「このうちは、あなたがお買いになるまえは、いったいだれのうちだったのですか?」
「ええ……と、わたしは|仲介者《ちゅうかいしゃ》から買ったのですが……そうそう、たしかまえの持ち主は、大野……大野健蔵というひとでした」
 金田一耕助と文彦は、それを聞くとハッと顔を見合わせたが、つぎの瞬間、耕助は身をひるがえして、押し入れのまえにとんでいくと、パッとドアをひらいた。
 引っ越してきたばかりのこととて、押し入れのなかはからっぽである。金田一耕助は懐中電燈で、押し入れのなかを眨伽皮い郡ⅳ工坝覀趣韦伽恕⑿·丹胜伐堀骏螭ⅳ毪韦虬k見して押してみた。
 と、そのとたん、一同はおもわずアッと声をたてたのである。
 おお、なんということだろう。押し入れの床が、ガタンと下へひらいたかと思うと、そこにはまた、まっ暗な縦穴がひらいているではないか。しかも、懐中電燈の光で眨伽皮撙毪取ⅳ饯慰k穴には垂直に、鉄のはしごがついている。
 一同はしばらくだまって顔を見合わせていたが、やがて金田一耕助がきっぱりと、
「警部さん、あなたはここにいてください。加藤さんにまだいろいろとおたずねになることがあるのでしょう。ぼく、ちょっとこの抜け穴を眨伽皮撙蓼埂
「アッ、先生、ぼくもいきます」
 文彦が叫んだ。
「よし、きたまえ」
 金田一耕助は一步鉄ばしごに足をかけたが、とつぜん、ギョッとしたように立ちすくんでしまった。
「せ、先生、ど、どうかしましたか?」
「シッ、だまって! あれを聞きたまえ!」
 金田一耕助はそういって、抜け穴の底を指さした。それをきいて一同が、きっと、聞き耳をたてていると、ああ、聞こえる、聞こえる、抜け穴の底からかすかな足音が……ためらうように步いてはとまり、それからまた、思いきったように步きだす足音……。
 しかも、その足音はしだいにこちらへ近づいてくるではないか。
 一同はおもわずギョッと顔を見合わせた。

     またもや消えた銀仮面

 ああ、ひょっとすると銀仮面がまだ、地下の抜け穴をうろついているのではあるまいか。
「だ、だれだっ! そこにいるのは!」
 等々力警部がたまりかねて、大きな声で叫んだ。その声はまるで、ふかい古井戸にむかって叫ぶように、あちこちにこだまして、遠く、かすかに、いんいんとしてひびいていく。と、たちまち足音はむきをかえて、もときたほうへ走っていった。
「しまった!」
 と、舌を鳴らした金田一耕助、手にした懐中電燈を口にくわえると、いきなり鉄ばしごのそばにある、太い垂直棒にとびついた。と、見るやスルスルスル、そのすがたはまた
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